世界遺産となった富士山
この季節
雪けむりがあがる
雪けむりは
風の道
登山者をなやます
魔物がひそむ
富士山に登ったのは
あとにもさきにも一回こっきり
学生時代最後の
二人だけの冬山
木枯らしが一晩中うなる
栂の森ふかくにテントを張って
ラジュースで雪を溶かす
コッヘルを満たした水は
表面からかさこそと凍り
シュラフにもぐりこんで夕餉
ながい、ながい夜を
そうして、迎えた夜明けは一面の銀世界
アイゼンを蹴り込むように
登る
ひたすら登る
六合目上で滑落訓練
その後は
ひたすら
両の足とピッケルの三点確保
突風に全神経をそそぐ
風が おりおりに
雪煙を運び
その突風を耐えしのぐ
突風のふきぬける
一枚の
際限もなく続く
アイスバーン
それが
富士山の実景なんかもしれない