寒の街に
ゆらゆらと月がのぼる
しらじらと
凍れる光にてらしだされる
喪われた遠い日々の記憶
小石川柳町から伝通院に
細い坂道を
その坂の途中のアパートの二階
本郷台、向丘、白山御殿の
木造の家々に灯がともる
一葉の水を汲みにし井戸
八百屋お七の眠る墓
戦災を免れた街は
密集して活気にみなぎり
宵ふかく
勉学にいそしむ灯(ともし)にあふれ
堕ちてしまった者達に
それは限りなく遠く
眩くも隔絶された風景だった
丘にたてば
へめぐる走馬灯
たぐれどもたぐれども
遠い日々は
灯ともしながら
いまにしてなお
凍れる街らしい