台風過、多摩川は河川敷をおおきく呑み込んで
ついぞ見ることのない壮大さにひろがっている。
多摩川をわたるケーブルに避難した鵜は、激流を遙か下方に、あるものは、孤高に、あるものは身繕いに、あるものは、愛をかたり、あるものは、諍い、あるものは、寄り添い、いつか始まりそうな舞曲の手前、G線上のアリアが思いおこされる。
まだ、貧しい民びとには、縁もゆかりも無いオーディオ、LPも高価だったころ、豊島図書館の手前に西洋のお城のような名曲喫茶があった。約束の時間より早めについてしまって、夕陽に輝くステンドグラスの薄暗がり、ひとり、ぽつねんと聴くG線上のアリア、なぜか、そこだけが、記憶に残っている。